2016年12月23日金曜日

トランプ氏の是非

   

      トランプ氏が大統領に選出された。 大統領選の間、国民は格差の
   深刻さ、不合理さに相対する事になった。 この格差、即ち巨大な経
   済的格差、アイデンティティ格差(民族・人種・宗教間)が改められな
   いままの状態が存続すれば、アメリカ国内でのテロの可能性が心配
   される(ブログ:情報化社会とテロ)。今、国家間の関係が密接な時、
   各国家がローカルに留まる事が出来るのか。 演繹的に将来の展開
   を予測するのは困難である。



第二次世界大戦後、各国家はお互いの間に高い経済的規制を設けた。国内のみでの経済成長を図るべきだとする各国の考えによるものである。 しかし1970年位からこの考えに基づく成長に鈍化が始まった。

米国では国内に限っていた経済成長の枠を"国内から世界へ"と切り替えを図り、大幅に国家間の規制を緩和し始めた。丁度脚光を浴び始めた新自由主義(ミルトン・フリ-ドマンの学説:1976年ノ-ベル経済学賞受賞)に基づく考えである。 国家の規制を少なくすればするほど成長は加速する。

その様なわけで、各国とも関税の壁を低くしていった。 規制を緩和し、為替も固定制を止め変動相場制とし, 更にインターネットの導入を行った。インターネット通信技術は国防総省で開発された。 それは高速通信線路が網目状に張り巡らされ、或るルートが破壊されてもその他のルートを通って情報を送ることができる。 正に一瞬も情報が遅れることが出来ない核戦争時代の通信網である。 超高速伝送線と世界を覆う回線を通し、グローバル化を強力に推し進める一助となったテクノロジーである。世界企業として、マイクロソフト、アップル、グーグルが大きく世界に羽ばたいたのを見ても、世界中を覆う回線網の寄与が、如何に大きなものであるかが解る。

各国も次々と規制緩和に向った。 その結果グローバル化が急速に広がって行く事になる。 各国のGDPも大きく増加した。 このようなグローバル化に対する異なる意見も多くあった。
グローバル化は労働者の賃金を上げさせず、格差が拡大するばかりである”
(中野豪志;経済産業省)
例えば今回の大統領選でクローズアップされた言葉に、ラストベルト地帯と言われるものがある。錆つき、すたれてしまった企業が集った地帯の意味である。 その中の一社、べスレヘム・スチールでは、日本・ドイツの高い品質の鉄鋼の流入や、更に、より安価な外国製の鋼が韓国やインド等から輸入された。 1980年代の事である。 安い鋼材の輸入によって、ベスレヘム・スチールの市場占有率は急速に低下し、多くの失業者を排出し、2001年に破産を申し立てた。 この様にアメリカの各地域でも負の影響を受ける所が多く失業者数が増加して行った。

更にメキシコからは、正規低賃金労働者1000万余の移民がアメリカ人の雇用を奪う事になる。 増え続ける流民は又人種間の反目をも引き起こすものとなった。 地域毎に大きく貧困層の数は異なる事になる。
大きな経済格差、民族間軋轢これ等の要因はトランプ氏により取り上げられ大統領選挙の勝利に大きく寄与したと言われている。
しかし、それにも拘わらずアメリカの経済指標、例えば雇用統計、小売売上高等を見るとマクロ的には決してアメリカの景気は悪くはない。
ニューヨークなどでは、実体経済に陰りが出て来た頃からインターネットを通しての金融取引が大きく発展して行った。 1990年頃からアメリカでは実体経済だけではなく、為替取引や株取引きによるマネーの操作が盛んになってきた。 主にニューヨークがその中心で、アメリカに大きな利益をもたらした。 現在、為替の一日当たりの取引量は180兆円、株式取引量は15兆円(NHK調べ)と実体経済より大きな値である。
更に西海岸地域、特にシリコンバレーでの小型コンピュータの開発を中心とした技術革新で、アメリカは大きなイノべーションに支えられる事になった。
しかし乍らこれ等の金融グローバル化やイノベーションは、富裕層への富の偏在を加速させるだけで、貧困層の救済には繋っていなかった。
現在の経済格差について良く引き合いに出される数値は、たった1%の富裕層に全米国民所得の30%が、トップ10%に米国所得の70%が集中しているというものである。

ニジェール   (大串 安子 撮影)


トランプ氏の大統領当選は大変なショックを全世界に与えている。 特に今迄、政治・経済のエキスパートから見ると、政治にも無経験の次期大統領の今後については、大よそ予測のつかない事態の様に見える。 現在は選挙中の言動を離れ、一応穏やかに見えるトランプ氏の言動が何時まで続くのかを心配し、益々心配の種は尽きぬかの様だ。 巨大な格差、民族・宗教・人種等々の断絶(アイデンティティ格差)をそのままにして置くわけにはいかない。既に全世界がグローバル化で揺り動いている現在、グローバル化の解消を辞めにしてローカル化に走り、大きな格差や資本主義社会に根づく矛盾を解決できるのだろうか。
しかしアメリカ・ファーストを信条にして突き進めば、諸問題に対処する方法のベクトルは、方向性のない種々の方向に向かはなくてはならない事になるだろう。 トランプ氏は生え抜きの実業家だと聞く。 又今回、国務長官に任命が予定されているのは、エクソンモービルの会長のレックス・テラーソン氏である。 トランプ内閣が問題に対処する仕方は、個々別々に一貫性のない方法しかない様な気がする。ヨーロッパでも同様な問題が、炎を作ろうとしている時である。 世界全体で、個々に、先ずは内に内にと向かいかねない時である。
歴史的に見ると天下大乱の時には異なる分野でも、同一な現象が同時に現れるのを見る。                            
余計な事かも知れないが、第4次産業革命の起動力として期待されているものに人工知能がある。 人工知能は当面する問題を、ディープラーニングという独特な処理方法で処理する。ビッグメモリに蓄積された膨大な基準データに照らし合わせ結果を導く。 デジタル的帰納法とでもいうべきものかと。大まかに言えばカット&トライだが、その処理速度は恐しく速い。         
今、色々な分野で今迄にない手法が用いられ始めている。 ”例えば、フィンテック(金融)、IOT(産業)、医学(科学)等々、数え上げればきりがない分野で、人工知能による変革が始っている。
その様なわけで今、私達の思考の原点が、大きな転換期にあると思っても良い。 即ち演繹的頭脳から帰納的頭脳への転換である。 後になって振り返り、あーあの時がそうだったのかという類なのかも知れない。 
現在、演繹的方法で問題が解決出来る分野は少ない。
それに反し、周知の如く帰納的方法が、コンピュータの進化により大きな成果をあげている。
この観点からトランプ氏のこれからを考えて置くのも一考かもしれない。
経済学・政治学の立場から、基本的な学説に基き演繹的に将来の流れを予測する事は出来ない程現状は複雑である。 トランプ氏の勝利は、資本主義が投げかけている多くの究極的な諸問題の流れを変えるのに、必然といえるのかもしれない。
大きなトリガーで世界を混乱に導き、カット&トライで対処する。 奇抜であり、且つ懐疑的ではあるが、今はこの様に考える他ないようである。
しかし、今、世界は非常にクリティカルな状態にある。 ヨーロッパ諸国の不安定、中東アラブ世界の混乱、社会主義国の覇権主義等々である。
その様な状況の時、国々への強烈なトリガーは非常に危険を伴う。 既に、トランプ氏が大統領選に選ばれた事だけで、EU諸国に大きな政治的傾斜が加速されている。 右翼政党、保守政党の躍進である。

2016年9月12日月曜日

英国のEU離脱と情報化社会

       

     英国のEU離脱は情報化社会の進展に伴うグ-ロバル化、民主主義の
      質を決めるアイデンティテイ、資本主義究極の国家間、個人間の経済的
      格差、変質化しつつある資本主義体制等々が絡む問題と考えている。


201676日イギリスがEU離脱を決定した。大方の予想に反し国民投票でEU残留は否決され,18kEU離脱となった。英国、EU、日本等を含めた各国への予想された激震的経済ショックは、現在どうにか一時的に落ち着いている様子ではある。

EU発祥の原点は、2度と戦争はしないという壮大な理想を掲げた社会実験であった。制圧ではなく民主的に欧州の国々が一体化しようというものである。前2回の大戦でヨーロッパの人達は悲惨な境遇を味わい尽くしてきた。第二次世界大戦では世界中で5000万人もの犠牲者が出たとも推測されている。戦争の背後にあった石炭、鉄鉱石等の資源の争奪戦のような事態を2度と引き起こし戦争に至らないようにしようと設立されたのは、1952年の欧州石炭鉄鉱共同体(ECSC)の立ち上げであった。 石炭、鉄鉱石を共同管理とする事で無用な国家間の争いを起こさない様にするのが目的である。その後、フランス、ドイツ首脳であったドゴール、アデナウアの尽力でこの共同体は推し進められ、EUの前身、EC(ヨーロッパ共同体)となった。その時にはフランス、ドイツ、オランダ等僅か6ヶ国の構成での発足だった。1973年から拡大し始め1993年EU(ヨーロッパ連合)となっている。 構成国の数は28ヶ国と拡大して行った。EU内では、人、物、金、サービスの移動の自由化、国境という障害物のない連合体の構築、更には共通通貨ユーロの導入等、種々の画期的な試みが導入された。あたかも欧州28ヶ国が合体して、広大な一国の様なEUが構成された。

2012年にはEUに対してノーベル平和賞が授与され、その意図は世界に認められるものとなった(平和と和解、民主主義と人権の向上に貢献した事に対してのノーベル賞の授与である)。残念ながらこの様にして発展してきたEUは、今回EU内の強大な一角、英国の離脱で大きなつまずきに陥っている。EU離脱についてのオバマ大統領のコメントは「イギリス問題については、各国はアイデンティティを保ちながら統合の益をどう享受できるかを欧州全体で考える為の小休止だと考えるべきである」というものであった。(627日米公共放送)

オアフ島    (大串 昭子 撮影)

現在、構成国は27ヶ国となっている。その発足時点では英国を含めて28ヶ国、その各々が国々のアイデンティティや各国家間の経済的格差を内蔵したままの併合である。情報化に伴うグローバル化に助けられて地域的には広大なユーロ圏を形成していた。ナショナルアイデンティティは、その国の長い歴史の間に徐々に形成されていくものであろうし、特に今回は、大英帝国として世界中にその名を轟かした英国の問題である。多くの植民地を有し経済規模も強大な国であった。その国民のプライドは高齢者に高く、国民投票時に離脱派に過去を懐しむ高齢者が多かったのもうなずける。  
高サラリーを求めてオランダ等からの長年に亘る移民の流入の為、職を奪われた英国民も離脱派にまわった。これは各国間の経済格差に起因するトラブル であると考えられ得る。他方、英国がEUに留まる事で得る益は、外国資本の流入、EU同志の相互自由貿易、米国のウォール街と並ぶ屈指の金融センター、シティの存在等々から来る益に潤おされていた。 離脱は英国にとっても大きなリスクを負う事でもあった。 イギリスのEU離脱問題で心配されたことはその離脱の刺激を受けて、場合によっては、ヨーロッパ連合全体のドミノ的崩壊を招きかねないかという事であった。現在、経済的にはギリシャ、イタリア、スペイン、政治的にはフランス、オランダ等のようにEU離脱の気運が高くなっている国々が多いからである。
EUの崩壊が起これば欧州のみならず、全世界のシステムのバランスを変えてしまい世界全体を揺るがす大問題に発展しかねない。それ故、国民投票で一瞬にして英国のEU離脱が決まってしまった事は驚愕に近い驚きで迎えられた。
英フィナンシャルタイムズ解説者マ-ティン・ウルフ氏は、EU離脱について 「英国にとって第2次世界大戦以来、最も重要な出来事であり、西側世界がグローバル化から逆回転をはじめる歴史的な瞬間で、政治的、経済的エスタブリッシユメント(支配層)に対する反乱である」と述べている(624日付フィナンシャルタイムズ)。

話は別だが西欧のみならず、米国大統領選挙も今まで見られなかった混乱となっている。格差問題の政治への広がり、信仰も含めたアイデンティティ問題として考察すると、一脈相通じる問題のようである。情報化の進展に伴うグローバル化は人類に図り知れない進展と利益をもたらしてきた。そのグローバル化された枠の中で許容されうる格差、アイデンティティ等が問題として提起されても不思議はない。グローバル化された領域内の国家間経済格差、国家間のナショナルアイデンティティ格差等が大きすぎる場合は、領域全体は不安定となり安定するまでその流れは続く。許容範囲外のものは不安定化し、枠外のものとなり他の形態に移る。  

先述のマーティン・ウルフ氏のコメントでは 「西側世界がグローバル化から逆回転を始める歴史的な瞬間・・・」とあるが、そう言わしめるものが現在の世界には多々存在する。EUは理想を掲げ民主的に整然と構成された。それだけに人工知能の今からの急激な発展、種々な情報化の進展は大きな社会構成の変革をもたらす可能性がある。それだけに今回の英国のEU離脱に伴うユーロ圏及び英国の今後の動きは非常に示唆的なものがあり興味深い。

2016年5月7日土曜日

情報化社会とテロ 

人類は第一次世界大戦・第二次世界大戦とう、国と国とが戦い合う大規模な戦争を経験してきた。 その犠牲者は、第一次世界大戦では1,000万人、第二次世界大戦で 5,000万人とも数えられている。厳密な国境で区切られ、その内部は完全にシステム化された国家間武力闘争、しかも産業革命以来発達してきたハードを用いた銃、巨艦、巨砲、飛行機等が主力武器であった。第二次世界大戦の悲惨さと性格については終戦直前の原子爆弾による攻撃を見れば明らかである。 原子爆弾の開発は米国大統領ルーズベルトの命令で始まり、その技術的な面で中心人物は天才的物理学者オッンハイマーである。 彼を支えたのは全世界から集められた科学者群である。 彼らにより3発の原子爆弾がロスアラモス国立研究所で開発され、内2発が、日本の2都市に投下された。すべてが国家による大掛かりなプロジェクトである。第二次世界大戦の後は、各国の核開発の速度は加速し、核保有国は9か国にも及んでい。 特に米国、ソ連は水素の核融合の際に発生するエネルギーを利用した水素爆弾も含め、各々1万5950発(ストックホルム国際研究所調べ)にも及ぶ核爆弾を所有している。大国間の戦争は核爆弾の威力があまりにも大きすぎる為その使用はお互い自粛せざるをえなかった。各国間の核戦争の抑止力となているのが現状である。


このような状況の中で大きな社会形態の変化が起きてた。 1947年バーデン等 (1956年ノーベル賞受賞)による半導体能動素子(トラジスタ発明があり、それは社会構造まで変えてしまうほどの力を内蔵していた。この素子で、超微細化、超高速化が達成されソフトウェアの発展と相伴って今日の情報化社会の基盤が確立されていた。現在では地球的規模でネットワークが張り巡されている。膨大な情報が国家間、各専門分野間の壁を一瞬にして通り抜ける。スマホの普及でお年寄りから未成年まで、情報端末を持ち歩く時代となった。 一個人の思いが即時に現実化する可能性を帯びる時代であり、それに反して国家間のシステマティックな関係処理は非常にな時代でもある。
別言すると、情報化の進展に伴い巨大化したメディアを通して一人一人の思想とか信仰がそのまま社会の表面を飾るようになってきた。同一思想の小数グループの意見も又形成されることは容易である。
  
  

 人類発祥の地オルドヴァイ渓谷 タンザニア   (大串 昭子 撮影)
         
2015年11月3日パリ市内3か所でテロが発生した。死亡者は130人、負傷者は350人と言われ世界中の視線が注がれた。 実行犯は9名。ベルギーやフランスの普通の若者達(内5人はフランス国籍を有する若者)であり、IS(Isramic State)過激派の指令に基づいているという報道がなされた。

更に重要なテロ事件が米国カリフォルニア州サンバーナデ-ノの福祉施設で発生した。 イスラム教信者の夫婦による銃乱射によるもので14名の死者と21名の負傷者がその犠牲者である。 イスラム教信者としての米国社会に対する苛立ちが顕著であったとも報じられている。インターネット上には、ISの元幹部スーリーなる人物の影響を伺わせる部分もある。 指摘されているように情報化社会は流動性の高い揺れ動き易い状態である。 必ずしもスーリー氏の存在が事件の解明に必要なのであろうか?過去に僅かな人数で、IS過激思想とは別個に少人数で起きたテロは、カナダ、オタワ連邦議会襲撃事件(2014年)ボストン爆破テロ事件である。

パリ事件の直後、第三次戦争の始まりではと言う囁きも聞こえたが、今その様な言葉は聞かれない。

しかし何処でテロが起きてもおかしくない状況下にあり、人類が受けるテロによるストレスは益々増大するばかりである。 

何故テロが頻発するのか。 テロのトリガーとして、資本主義社会究問題である経済格差。 更には宗教問題、即ち、キリスト生誕から2000年を迎えた宗教界の不安定性(これは同時にイスラム教の不安定要因にも結びつきうる)。 情報の広域化による民族問題等々による多くの苛々に世界は満ち溢れている。 これらは国家の国境を超え存在する共通の問題である。 

社会主義国家はその共産制を維持する為には中央集権的な権力が必要な社会である。しかし今は,「由らしむべし知らしむべからず」という言葉は通用しない時代である。 それほどスマホやコンピュータは国の体制に関わらず普及し尽くしている。

これは第一次世界大戦、第二次世界大戦の時の国家間のみの争いだった時とは様子が大きく異なっている。 第一次・第二次世界大戦時の戦争勃発原因は、国王、国家元首間の軋轢、国家間の領土的野心、世界恐慌に関する問題の解決手段等々が主な原因であった。

しかしテロ発生の原因は、国際間の出来事ではなく国内にその原因を内蔵し、今までの戦争とは大きく異なっている。 しかし戦争に似た状態が徐々に拡散して世界中に広がりつつある。 世界を混乱に落とし行く可能性で不安を禁じ得ない。

信じ難いことながら、ベルギーでのテロ事件の様に核物質が絡む様な場合は考えたくない事態である。