2016年9月12日月曜日

英国のEU離脱と情報化社会

       

     英国のEU離脱は情報化社会の進展に伴うグ-ロバル化、民主主義の
      質を決めるアイデンティテイ、資本主義究極の国家間、個人間の経済的
      格差、変質化しつつある資本主義体制等々が絡む問題と考えている。


201676日イギリスがEU離脱を決定した。大方の予想に反し国民投票でEU残留は否決され,18kEU離脱となった。英国、EU、日本等を含めた各国への予想された激震的経済ショックは、現在どうにか一時的に落ち着いている様子ではある。

EU発祥の原点は、2度と戦争はしないという壮大な理想を掲げた社会実験であった。制圧ではなく民主的に欧州の国々が一体化しようというものである。前2回の大戦でヨーロッパの人達は悲惨な境遇を味わい尽くしてきた。第二次世界大戦では世界中で5000万人もの犠牲者が出たとも推測されている。戦争の背後にあった石炭、鉄鉱石等の資源の争奪戦のような事態を2度と引き起こし戦争に至らないようにしようと設立されたのは、1952年の欧州石炭鉄鉱共同体(ECSC)の立ち上げであった。 石炭、鉄鉱石を共同管理とする事で無用な国家間の争いを起こさない様にするのが目的である。その後、フランス、ドイツ首脳であったドゴール、アデナウアの尽力でこの共同体は推し進められ、EUの前身、EC(ヨーロッパ共同体)となった。その時にはフランス、ドイツ、オランダ等僅か6ヶ国の構成での発足だった。1973年から拡大し始め1993年EU(ヨーロッパ連合)となっている。 構成国の数は28ヶ国と拡大して行った。EU内では、人、物、金、サービスの移動の自由化、国境という障害物のない連合体の構築、更には共通通貨ユーロの導入等、種々の画期的な試みが導入された。あたかも欧州28ヶ国が合体して、広大な一国の様なEUが構成された。

2012年にはEUに対してノーベル平和賞が授与され、その意図は世界に認められるものとなった(平和と和解、民主主義と人権の向上に貢献した事に対してのノーベル賞の授与である)。残念ながらこの様にして発展してきたEUは、今回EU内の強大な一角、英国の離脱で大きなつまずきに陥っている。EU離脱についてのオバマ大統領のコメントは「イギリス問題については、各国はアイデンティティを保ちながら統合の益をどう享受できるかを欧州全体で考える為の小休止だと考えるべきである」というものであった。(627日米公共放送)

オアフ島    (大串 昭子 撮影)

現在、構成国は27ヶ国となっている。その発足時点では英国を含めて28ヶ国、その各々が国々のアイデンティティや各国家間の経済的格差を内蔵したままの併合である。情報化に伴うグローバル化に助けられて地域的には広大なユーロ圏を形成していた。ナショナルアイデンティティは、その国の長い歴史の間に徐々に形成されていくものであろうし、特に今回は、大英帝国として世界中にその名を轟かした英国の問題である。多くの植民地を有し経済規模も強大な国であった。その国民のプライドは高齢者に高く、国民投票時に離脱派に過去を懐しむ高齢者が多かったのもうなずける。  
高サラリーを求めてオランダ等からの長年に亘る移民の流入の為、職を奪われた英国民も離脱派にまわった。これは各国間の経済格差に起因するトラブル であると考えられ得る。他方、英国がEUに留まる事で得る益は、外国資本の流入、EU同志の相互自由貿易、米国のウォール街と並ぶ屈指の金融センター、シティの存在等々から来る益に潤おされていた。 離脱は英国にとっても大きなリスクを負う事でもあった。 イギリスのEU離脱問題で心配されたことはその離脱の刺激を受けて、場合によっては、ヨーロッパ連合全体のドミノ的崩壊を招きかねないかという事であった。現在、経済的にはギリシャ、イタリア、スペイン、政治的にはフランス、オランダ等のようにEU離脱の気運が高くなっている国々が多いからである。
EUの崩壊が起これば欧州のみならず、全世界のシステムのバランスを変えてしまい世界全体を揺るがす大問題に発展しかねない。それ故、国民投票で一瞬にして英国のEU離脱が決まってしまった事は驚愕に近い驚きで迎えられた。
英フィナンシャルタイムズ解説者マ-ティン・ウルフ氏は、EU離脱について 「英国にとって第2次世界大戦以来、最も重要な出来事であり、西側世界がグローバル化から逆回転をはじめる歴史的な瞬間で、政治的、経済的エスタブリッシユメント(支配層)に対する反乱である」と述べている(624日付フィナンシャルタイムズ)。

話は別だが西欧のみならず、米国大統領選挙も今まで見られなかった混乱となっている。格差問題の政治への広がり、信仰も含めたアイデンティティ問題として考察すると、一脈相通じる問題のようである。情報化の進展に伴うグローバル化は人類に図り知れない進展と利益をもたらしてきた。そのグローバル化された枠の中で許容されうる格差、アイデンティティ等が問題として提起されても不思議はない。グローバル化された領域内の国家間経済格差、国家間のナショナルアイデンティティ格差等が大きすぎる場合は、領域全体は不安定となり安定するまでその流れは続く。許容範囲外のものは不安定化し、枠外のものとなり他の形態に移る。  

先述のマーティン・ウルフ氏のコメントでは 「西側世界がグローバル化から逆回転を始める歴史的な瞬間・・・」とあるが、そう言わしめるものが現在の世界には多々存在する。EUは理想を掲げ民主的に整然と構成された。それだけに人工知能の今からの急激な発展、種々な情報化の進展は大きな社会構成の変革をもたらす可能性がある。それだけに今回の英国のEU離脱に伴うユーロ圏及び英国の今後の動きは非常に示唆的なものがあり興味深い。

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